メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
「里香さんかな?」
隣家に住む里香は大和の妻だ。とてもいい人で、一人暮らしの灯里をなにかと気にかけてくれる。里香にはヤマダを紹介済みなので、ヤマダが来るのに合わせて、たまにおかずのおすそ分けをしてくれることがあるのだ。
最初、なぜか大和に対しては冷淡だったヤマダだが、里香が妻だとわかると急に態度が軟化した。大和夫妻にお菓子を山ほど持ってきて、「灯里ちゃんがお世話になっているお礼です」と改めて挨拶をするほどの変貌ぶりだ。でもそれ以来、大和夫妻とヤマダは仲がいい。
玄関先にいるので、そのままガチャリと扉を開けたら、そこにいたのは意外なことに今西と晴夏だった。
「灯里ちゃん、久しぶり!」
いつものようにムギュッと抱きしめられる。
「晴夏さん、今度の火曜日に来るって言ってませんでしたっけ?」
押し付けられた胸の中から、もごもごと問いかけた。
「牛肉をたくさんもらったので持ってきたの。火曜だと痛んじゃうでしょ?だから来ちゃった。すきやき食べましょ」
上機嫌で言った後、晴夏は灯里を抱きしめていた腕をフッと緩めた。
灯里の後ろに立っているヤマダに気づいたようだ。
「ヤマダさんのことご存じですよね?」
怪訝そうにヤマダを見ている晴夏に問いかける。クリエイトウエストの創業メンバー三人は、学生の頃からの友人だと聞いている。晴夏なら当然知っているはずだ。
「ヤマダ?」
晴夏の整えられた綺麗な眉毛がピクッと上がる。
「ええ、ヤマダさん。ご存じないですか?」
灯里はうろたえながら小さな声で付け加えた。
「会社の創立時からいるメンバーって聞いてますけど…」
すると、晴夏はクワッと目を見開き、すごい勢いで話し出した。
「ヤマダ、ええ、ヤマダね。知ってますとも。もちろんよーく知ってるわ。ヤマダね。ヤマダ。それで?ヤマダはこんなところで何をしているのかしら?灯里ちゃんに何か用事があるとでも?」
「は、晴夏さん?」
鬼のような形相で「ヤマダ」を連呼する晴夏を唖然と見上げる。
「晴夏、まあ落ち着いて」
今西は持っていた保冷バッグをヤマダに押し付けると、晴夏を外に連れ出した。
「…晴夏さんとなにかあったんですか?」
呆気に取られてヤマダに問いかける。
「いや。今西に任せておこう」
ヤマダは眉間を揉みながら、家の奥に入っていった。