メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
買い物に行く灯里と晴夏を見送って、安西はため息を吐いた。
「おまえ、毎週来てるのか」
呆れたように今西が聞く。
「…ああ」
「まさか居ると思わないから、晴夏を連れてきてしまっただろ」
「すまん」
『ヤマダ』を連呼している時の晴夏は、悪魔に憑依された魔女のようだった。目があったら石にされる!そんな心配が必要なほど。
あの晴夏を見ても動じない今西を尊敬する。百年の恋も冷めるレベルだというのに。
よくぞあんな妹を引き受けてくれた。
今西よ、ありがとう。
心の中で精一杯の謝辞を述べた。
「この先どうするつもりだ。このままヤマダのままでいるつもりか?」
「いや…」
このままでいいわけがない。もちろんそれはわかっていた。
「そろそろ離婚の話をしなければならないぞ。灯里ちゃんも四月からどうなるのか不安だろうし」
「わかってる」
そうわかっているのだ。
でも、二度目の訪問で本当のことを言う覚悟を決めてきたのに、「ヤマダさん」と安西を呼ぶ灯里が可愛すぎて、本当のことが言えなくなってしまった。それ以降、どんどん言いづらくなってヤマダのままで過ごしてしまっている。
自分を棚に上げて言うなら、とにかく灯里が可愛くて困る。
嵐を経験してから、雷が怖くなったと涙目で灯里が言ったときには、思わず抱きしめてしまいそうになって必死に堪えた。
女性の一人暮らし、それも知らない土地を転々とする生活は、どれほど心細かったことか。安西はこの時、偽装結婚を心の底から後悔した。そして、灯里と本当の夫婦になりたいと強く思ったのだ。