メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~


「お世話様です。主人はどうでしょうか?」
「残念ながらまだ意識は戻ってませんね」

申し訳なさそうに答える看護師に、灯里はそうですかと頷いた。

手術は無事成功し、安西は一命を取り留めた。でも、五日経った今もまだ眠ったままだ。他人に安西の妻だと名乗るのは抵抗があったが、家族以外は面会謝絶なので仕方がない。病院では、安西の妻で通していた。

灯里は、連日ナースセンターで意識が戻ったかどうかを確認してから病室に行っている。意識が戻って大丈夫だとわかったら、会わずに帰るつもりでいるのだ。

病室を軽くノックしてから扉を開ける。
安西はただ眠っているだけのような穏やかな顔で横たわっていた。

「ヤマダさん、来ましたよ」

そっと声をかけ、ベッドの傍らの椅子に座る。灯里はこのまま「ヤマダ」として接することに決めた。「ヤマダ」は安西の会社の人。安西がその設定を望んでいたのであれば、最後までそれを通したい。

掌にそっと触れて静かにさする。あの時冷たく冷え切っていた手は、もう温かい。
〝生きている〟
それだけでありがたかった。

「早く目を覚ましてください。今西さんが怒ってますよ、寝てないで早く仕事しろって」

実際、今クリエイトウエストは大変なことになっていて、今西が処理に追われていた。安西を刺した犯人は捕まったが、その犯人が、以前、安西が地域おこしを担当した町の元町長だったのだ。


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