メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
コーヒーを買って病室に戻りかけると、ナースセンターの前に女性がいるのが見えた。顔なじみの看護師が、困ったような顔をしながら対応している。
「安西さんは、ご家族以外面会謝絶なんです」
「そうなの?でも、私はもうすぐ家族になるんです。だから大丈夫」
押し問答のようなやり取りが聞こえたので、足を止めた。
「安西の面会に来られたんでしょうか?」
灯里が声をかけると、女の人はこちらを振り返って、怪訝そうな顔で灯里を見た。綺麗に染められた栗色の髪。顔の全てのパーツが申し分なく配置されている。華やかでとても美しい人だ。
「あなたは?」
「安西の家の者です」
女の人の険しい表情がぱっと変わり「あなた、陽大の妹さんね!」と微笑んだ。
「陽大が本当に大変なことになって…。居ても立っても居られないから来てみたの。私、婚約者の吉田亜里沙です。お会いできて嬉しいわ」
看護師がギョッとした顔で灯里を見る。灯里は言葉を失って立ち尽くしていた。
何も言えない灯里の代わりに、看護師が恐る恐る「安西さんの婚約者の方ですか?」と問い直す。
「ええ。そうです」
自信たっぷりに亜里沙は答えた。
看護師が困惑したように、「えーと、でもこちらの方は…」と灯里の方を手で示したので、灯里は慌てて制した。
「ちょっとお待ちください。今、確認してまいります」
灯里は足早に病室に戻る。胸が痛いぐらいに脈打っていた。
ノックもせずにガラッと扉を開けると、今西が驚いたように灯里を見た。
「今西さん!今、ナースセンターに吉田亜里沙さんという方がいらっしゃってます」
息を弾ませて告げると、今西の顔はマズイというようにキュッと歪んだ。
「陽大さんの婚約者だとおっしゃっていて…」
「いや!婚約者なんかじゃないよ。それは違う」
今西は慌てて言うと、後は任せてと亜里沙の元に向かった。
〝婚約者なんかじゃない〟
でも?
〝恋人〟の二文字が心に突き刺さる。
安西が灯里に言いたかったことは、このことだったのだ。