メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
『来月からはどうするんや?陽大とは話をしたんか?』
『いえ…。でも、四月を待たずにここを出るつもりなんです』
『なんでや?』
『もう私は陽大さんには必要のない人間なので』
下を向いて言う灯里を、厳太郎はじっと見ていた。その後、考え込みながら、今はダメージが強すぎるやろかとブツブツつぶやいていたが、決意したように太ももをパシッと叩いた。
『よし!ほんまは四月の予定やったが、例の計画を前倒しで始めるで。葵!すべては陽大が悪いんやからな』
『おっ!やりますか。陽大も意識が戻ったことだし、ちゃんと普通に動けるようになるってお医者様も言ってたから、いいんじゃない?』
『偽装結婚なんぞでわしらを騙した陽大には、厳しくお灸を据えなあかん。今のタイミングは、弱り目に祟り目でちいと可哀そうな気もするが、ここは厳罰を与える。灯里ちゃんはわしがさらっていくで』と厳太郎は高らかに宣言した。
『えっ!!』
私なんてさらっても、陽大さんには何のダメージもありませんから、と懸命に訴える灯里の話も聞かず、厳太郎は誘拐計画を実行していく。
葵は『京泉』で副社長秘書をしているらしく、『京泉』会長と副社長秘書コンビの仕事の速さはすごかった。
出来る女の人ってこういう人のことを言うんだ。
会社勤めをしたことがない灯里にとって、葵は〝出来る女〟の象徴となった。
灯里も厳太郎に言われるままに、持っていくものを仕分けていく。さらわれていくのに荷物の整理ってどうなの?と思いながらも、葵に感化されて、いつもの三倍速くらいで頑張った。
あらかじめこの展開がわかっていたかのように、引っ越し業者の人もすぐにきた。さっと荷造りをしたと思うと、嵐のように去っていく。あっという間に引っ越し(誘拐)は完了したのだ。