離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「行ったのか、旦那」
「はい。でも、どうして専務がここに?」
「今夜発つという話は聞いていたから、なんとなく……様子を見に」
そっけなく言う彼だが、きっと部下の私を心配してくれたのだろう。今日の私は仕事中もソワソワしてしまい、訝しんだ専務に夫がギリシャに出向することや飛行機の時間まで、すべて話していたから。
あれから本当に人が変わった専務は、髪を短く切り落ち着いた色のスーツを身に着け、仕事への姿勢も真摯なものになった。
他社へロボットを売り込む時だけちょっと行き過ぎた演説をしてしまうけれど、そんな人間味も逆に、彼への信頼を生んでいる。
「ご心配おかけしてすみません。明日の仕事には支障を出さないようにします」
「ああいや、さっきのソレは本心じゃなくてだな、その……帰る前に茶でも」
もごもごと、言いにくそうに専務が話している途中で、専務の背後に大きなふたつの影が近づいてきた。
ふたりとも顔見知りなのでペコッと頭を下げると、彼らは専務を挟み込むようにして両脇に並んだ。
専務より背が高く、威圧感のあるオーラを放っている彼らに気づいた専務は、おびえたように肩をすくめる。