離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「天馬モーターズって、そんな馬鹿親子が経営してるのか……。佳乃のことも心配だな」
「えっ……いえ、私は大丈夫ですよ! 雨音さんと違って色気の欠片もないし」
「そうやって自覚がないから怖いんだって。なんかあったらすぐ言えよ」
真剣なトーンで諭されて、胸がトクンと鳴った。雨音さんの前だというのに、おそらく照れた私の頬は赤い。
「佳乃ちゃん、本当に幸せそうねぇ」
ほほえましそうな目をして、雨音さんが言う。
「か、からかわないでください」
ますます熱くなる頬を両手で挟み、いたたまれずに俯く。と、その時。テーブルに置いていたスマホが振動し、着信を知らせる。
画面に映ったのは【前門常務】の名で、私は慌てて席を立った。
「すみません、常務から電話なのでちょっと外します」
「行ってらっしゃい」
ふたりに見送られ、スマホを片手に店の外に出る。
一度深呼吸をしてから応答した。
「お疲れ様です、柳澤です」
《こんばんは。こんな時間にすみません。ちょっと確認したいことがあって》
「はい」