離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
職場じゃないので手元にパソコンもないし、常務の確認事項に答えられるだろうか。
緊張しながら、常務の言葉に耳を傾ける。すると、来週取引先に出向く際の手土産の確認、いくつかの会議のリスケ依頼と、どれもそれほど急ぎじゃない用件ばかり。
なんとなく違和感を覚えつつも、常務に直接尋ねる勇気はなかった。
「承知しました。新たな会議日程は、月曜の昼までにメールで共有します」
《ありがとう。……うーん、まだ通話時間八分か。世間話でもする?》
「えっ?」
常務と世間話? なんでそんな流れになるんだろう。
まるで、通話を引き延ばしたいかのような……。
《ごめん、やっぱり僕には向かない役回りだったな。引き留めて申し訳ない。今、親しい人たちと食事中だろう? 早く戻った方がいい》
「食事って……なぜご存じなんですか?」
常務はふっと笑い声を漏らしただけで、なにも答えない。
《また来週、よろしく》
ダンディな低音で言い残し、常務は通話を切る。まったく腑に落ちないままだが、まだ前菜しか入れていないお腹が「ぐう……」と情けない音を立てたので、私は店内に戻った。