離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
彼と仕事をする時間が増えるにつれ、重役だからと過剰に委縮することもなくなっていたので、失礼と自覚しつつ素朴な疑問を口にした。
「あの、常務が独身でおられるのには、なにか理由が?」
「理由? 好きな人に振り向いてもらえないだけだよ」
夜景を映す大きな窓の方に視線を投げ、常務は自嘲気味にそう語った。
まさか、彼のような大人の男性が片想いをしているとは……。
「だから、好きな人と結婚して一緒に暮らしている柳澤さんが羨ましいよ。なにがあるかは知らないけど、問題が解決することを祈ってる」
そうだよね。私、好きな人とひとつ屋根の下で暮らせるっていう、とても恵まれた環境にいるんだ。
ひとりで悩んでいたってしょうがない。真紘さん本人に、きちんと不安をぶつけなくちゃ。
「常務、ありがとうございます。今夜は早く帰って、彼の好きなものでも作ってあげることにします」
「ああ、それがいい」
常務の穏やかな微笑みに見送られ、私は急いで帰り支度をする。受付の仕事をしていない今日は着替えもないので、七時前には会社を出ることができた。
真紘さんの帰りは何時頃だろう。