離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 恥ずかしい、いつから見られていたんだろう。

「す、すみません。ぼうっとして」
「旦那さんとうまくいってない、とか?」

 慌ててパソコンを閉じデスク周りを片付け始めたその時、常務が放ったその一言に、私の肩がビクッと跳ねてしまった。そのわかりやすい反応に、常務が苦笑する。

「ごめん、詮索するつもりはないから、答えたくなかったら答えなくていい。夫婦の問題は他人が口出しすることではないし」

 紳士的な常務らしい意見だ。上司に相談するほど立派な悩みというわけではなく、私ひとりでネガティブになっているだけなので、一線を引いた彼の態度がありがたい。

「ありがとうございます。浮気された、とか決定的な問題じゃないので、どうしようかなと自分でもわからなくなっているところで」
「そうか。でも、きみ自身は旦那さんを愛する気持ちに変わりはないんだろう? それならきっと大丈夫だ。……って、独身男に言われても説得力ないか」

 冗談っぽく自虐して大げさに肩をすくめる常務。そういえば、こんなに優しくイケメンで人柄もよく、社会的地位もある彼が独身なのが心底不思議だ。

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