離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「もしもし、柳澤ですが」
《ご無沙汰しています、司波です。突然ですみませんが、今お時間大丈夫ですか?》
「はい、これから帰ろうとしていたところなので。あの、夫になにか?」

 真紘さんが心配できちんと挨拶をする余裕もなく、私は早口で尋ねた。激しく鳴る鼓動を抑えるように、ギュッと握った拳を胸に置く。

《ショックを受けるかもしれませんが、隠していてもしょうがない。あの馬鹿、今佳乃さん以外の女性と腕を組んで歩いています。俺は少し離れたところからふたりを尾けているところで》
「えっ? それって……」

 まさか、浮気? そんなはずはないと頭では思っても、指先から血の気が引いていく。

《浮気かどうか、佳乃さんが自分の目で確認するべきだと思って、電話しました。今、ふたりが店に入ったので、俺も追います。店の名前と場所、すぐにメールしますので》
「あの、ちょっと」

 まだ行くとも言っていないのに、司波さんはせわしなく通話を切ってしまう。

 真紘さんが浮気しているかもと知るなり妻の私に迷わず電話をかけ、直接確認させようとする彼の強引さに驚くが、私自身、このまま家に帰って心穏やかに過ごせるとも思えない。

 でも、真紘さんの浮気現場をこの目で見て、私は耐えられるの……?

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