離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 雨音さんは妻帯者である真紘さんを手に入れ、どうしても埋まらない心の隙間を埋めようとしたんだ。

 絶対に間違ったやり方だし、私も少なからず傷ついた。でも、雨音さんの心はそれ以上に傷だらけなのだと思うと、単純に彼女を責められなかった。

 それから、ふたりが連絡先を交換したのは私と三人で食事をした時、私が電話で席を外した隙であること、ふたりで会うのは今日が初めてで、雨音さんから無理やり腕を組んだ以上はなにもしていないと聞かされた。

「真紘さん、一ミリもなびいてくれませんでしたね」
「そりゃ、佳乃というかわいい妻がいますから」

 真紘さんは当然のようにそう答えたけれど、雨音さんは静かに首を左右に振った。

「今までの人は、どんなにかわいい奥さんがいたって、一時の快楽のために私の誘いに乗りました。失敗したのは初めてです。でも……おかげで目が覚めました」

 雨音さんはそう言って、お酒のグラスを傾ける。その目は涙でまだ潤んでいるけれど、どこか晴れ晴れとしているようにも見えた。

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