離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
ぽかんとして聞き返した私に、花純さんが「あれっ?」と首を傾げる。
しかし、すぐにハッとして自分の口もとを両手で覆うと、申し訳なさそうに私を見た。
「ごめん。もしかして、出向の話、まだ聞いてなかったのかな?」
「はい、なにも……」
出向。しかも、行先は遠く離れたギリシャのようだ。そんな大事な話を、どうして本人でなく同僚の奥様の口から初めて聞くことになるんだろう。
私って、真紘さんの妻だよね? なんで、ひと言も報告がなかったの?
真紘さんへの信頼が急激に揺らいでくるのを感じ、私はギュッと唇を噛んで俯く。
花純さんは慌てたように椅子から立ち、リビングの真紘さんを呼ぶ。やがて、三人そろってダイニングに戻ってきた。
「ごめんなさい、佳乃ちゃんに話していないとは思わなくて、私」
「花純が謝る必要はない。大事な話を今まで黙っていたコイツが悪いんだ」
「時成さん、そんな言い方……」
「いや、司波の言うとおりだ」
花純さんが司波さんを窘めるのを遮るように、真紘さんが言った。
私の隣の椅子を引いて座り、深々と頭を下げる。