離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「ごめん佳乃、なかなか言い出せなくて」
「いつから、どこに? どれくらいの期間ですか?」

 真紘さんの目を見ずに、私は抑揚のない声で尋ねた。出向が何カ月も先、あるいは来年の話なら、話すタイミングが遅れただけだと納得できる。

「アテネにある在ギリシャ日本国大使館に、六月一日(いっぴ)から。期間は……確定ではないけど、おそらく一年」
「それ、すぐじゃないですか! どうして……っ」

 思わず顔を上げ、真紘さんを責めるように睨んでしまう。しかも、最低でも一年だなんて。

 そんなに長い間、日本を離れるの?

 彼は長い睫毛を伏せ、小さくため息を吐いた。

「ごめん。完全に俺のエゴ。今、佳乃との毎日がホントに楽しいから、出向の話はわざと先送りにしてた。でも、逆に佳乃を悲しませたな」

 今さらなにを言われても、言い訳にしか聞こえない。出向先が海外となればお互いの生活はガラッと変わる。いわば人生の一大事だ。

 それを、単に〝毎日が楽しいから〟報告しなかったって……そんなの、夫婦といえるだろうか。

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