離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「じゃあ、お母様も英語やフランス語がお得意なんですね」
「まさか。英語は多少できるけれど、フランス語は難しくてお手上げだったわ。パパも同じような感じだから、真紘がおかしいのよ。行く土地行く土地の言語をすぐ習得してペラペラ話せるようになるの。一種の才能なのかしらね」
「へえ……」

 意外だ。ご両親が多言語を話せるから、彼もそうなのだとばかり思っていた。

「さっき、真紘はなににも執着しないと言ったけど、する必要がないのよね。どこへ行ってもすぐに友達ができるし、その土地の習慣に慣れるのも早い。親としてはありがたい子どもだったわ。なににおいても器用なのよ、あの子」

 なににおいても器用――。確かに、真紘さんはいつもそうだ。私との結婚生活においても。

 お母様の言葉にハッとすると同時に、口に入れたチーズケーキの味が、急に重くべたついた。

 海外のあらゆる国に順応できるように、彼ならどんな女性にも順応できてもおかしくない。そういえば、お見合いの時に彼自身が言っていたではないか。

『俺、この人を好きになろうって決めたら、本当になれるタイプなんです。佳乃さんのことも、絶対に好きになる』

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