離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「美味しいのよ~ここのチーズケーキ。ニューヨークに本店があって、この春東京にもオープンしたんだけど、本店の味と遜色ないの」

 きめの細かい生地にフォークを入れ、お母様がチーズケーキをひと口味わう。それから紅茶を飲んで幸せそうな吐息をついた。

「ああ、懐かしい。パパと安いアパートメントで生活していた頃を思い出すわ」

 真紘さんのご両親は、お互いを〝パパ〟〝ママ〟と呼ぶ。真紘さん自身は『日本でそれは恥ずかしい』と、〝父さん〟〝母さん〟と呼んでいるけれど。

「ニューヨークにもお住まいだったんですか?」
「ええ。ちょうど結婚した頃だったかしら。真紘を産んだ時はパリにいたの。向こうは無痛分娩が日本より一般的だから、あの〝鼻からスイカを出す〟とか言われる痛みを経験せずに済んでよかったわ」

 お母様は、クスクス笑ってケーキを口に運ぶ。今まで両家の顔合わせなどで会うことしかなかったけれど、こうして個人的に話してみるととても親しみやすくて気さくな人だ。

 それにしても、真紘さんはパリ生まれなのか。出生地すらカッコよくてなんだかずるい。

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