離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
『社会保障費が膨らむばかりで、その負担は若い世代に先送り。将来に悲観的になるのも当然で、少子化に歯止めがかからないでしょうね』
リアリストの司波は冷静に言って、缶ビールを傾ける。俺はその横でピーナッツをポイッと空中に放り、口で受け止めて遊んでいた。
ぽりぽりとナッツをかみ砕きながら、司波の肩に手を置く。
『だから、俺たちでなんとかするんだろ? 消費税の増税もいいけど、家計を直撃するから反対する国民も多い……もっと誰もが納得する制度を提案していかないと』
『その〝誰もが納得する制度〟が難しいんだ、柳澤』
筋トレを終えた雨郡さんも、汗を拭きつつ俺たちの会話に加わる。
『そもそも、日本人は政治への関心が薄い。年金も医療制度も改革しなければならないが、厚労省と一体になって、丁寧に説明していかないと』
『時間がかかりますね』
『けど、今やらきゃそれこそ日本に未来はない。やれるさ、俺たちなら』
そんな調子で喧々諤々、朝方まで話し合うこともざらだった。ふたりの前なら、絵に描いたような理想論でもためらわず口にできた。
司波と雨郡さんは、人間関係に期待を抱かないようになっていた俺が、初めて心から信頼できる相手だったのだ。