マリアの心臓



楽しい雰囲気は、一切ない。

以前のときとは、確実にちがう。


告白? 劇?
そんな生やさしいものじゃなかった。


彼女たちは、本気だ。




「あ、アタシ……あなたがたに何かしてしまいましたか……?」

「は? それ本気で言ってんの?」

「無差別殺人と同類よ?」

「それとも、やりすぎて覚えてない?」




ごめんなさい。
と、反射的に謝りそうになり、とっさに下唇を噛んだ。

だめだ。まだ、言っちゃだめ。


何もわかっていないのに謝るのは、相手のためじゃない。

自分が楽になりたいからだ。


こんな身勝手、許されない。


優木まりあのためにも。




「……っ」

「へえ、ここで黙るんだ? 否定しないってこと?」

「ち、ちが……!」

「さすが、うわさの悪女」




良かれとしたことが、どんどん悪い方向にいってしまう。




「覚えてないなら教えてあげる、あなたの罪」

「他人の告白じゃましたり、ファンクラブに脅迫状送り付けたり。神亀の偽情報を流したり、ストーカーまがいなことしたり……」




指摘されてやっと、なんとなくだけれど記憶がよぎる。

どれも、優木まりあ自身、似たようなことをしでかした覚えがあった。



エイちゃんへの強すぎる愛。

明日には会えなくなるかもしれない、そんな途方もない不安。


さらに好きなヒトから拒絶されてしまえば、それらが暴走してしまうのも無理はない。



子どものいたずらとも言える範囲ではある。

けど、それで傷ついたヒトがいるなら、見て見ぬふりしちゃいけない。



……でもね?


そんな彼女を、アタシは……アタシだけは、責められないよ。

わかち合えてしまうんだ。



その焦りは。

孤独は。

……願いは。


真っ白な部屋に閉じ込められたヒトにしか、わかり得ない。




「昨日なんてさ! 衛さまだけにとどまらず、羽乃くんに抱きついたり、鈴夏センパイに媚ったりもしてたよね?」




昨日? 昨日ならアタシの話だ。


抱きつく……? 媚びる……?

いったい何のこと?


< 65 / 155 >

この作品をシェア

pagetop