マリアの心臓



昨日あったことといえば。

ウノくんへの告白を見ちゃって、鈴子さんのナンパに助太刀して、エイちゃんに想いを伝えたら噛んじゃったんだよね。


抱きつくとか、媚びるだとか、した覚えないのだけれど……。




「だ、誰かと間違えてないですか……?」

「へたな言い訳すんな!」

「うちら、昨日この目で見たんだから!」




鬼気迫る叫びに、誤解を解くこともはばかられる。




「ファンクラブ会員としては耐えられない……限界だった」

「ほんとサイテー! クソビッチが!」

「どれだけ神亀を振り回したら気が済むの?」




ガッ!と胸ぐらをつかまれた。

喉元が絞まっていく。


生唾が飛び散った。




「あんた、自分が特別だとか思ってるんじゃないでしょうね? とんだ自意識過剰!」


――ちがう……ちがうもん……!



「あの御三方に恋してる子なんて山ほどいるの! あんたはその大勢の中のひとりでしかない!」


――あたしは特別なの! 許嫁なの……!



「現実逃避もいいかげんにしたら? きらわれてんだよ、あんた。うちらからも……衛さまたちからもね!」


――そんな嘘、言わないで! 聞かせるな……っ!




ドキ、ドキ……――ズクンッ……!

心音が、不意に乱れ、鈍り出す。



涙の匂いがした。

鼻の奥がツンとする。



泣きそうになっているのだろうか。それとも……。


わからない。

わけもわからず、視界がぼやけていく。


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