マリアの心臓
耳を塞いでしまわなくてよかった。
彼女の美しい声を、聞き逃してしまうところだった。
劇じゃなくなっても、姫そのもののような矜持を持っているなんて、かっこよすぎる。
「少なくとも、この子は正々堂々と言葉で伝えてくれたわ」
見惚れていたら、彼女もこちらを見て、ほほえみかけてくれた。
やっぱり、アタシ、彼女のことは「お姫さま」って呼びたいよ。
「か、会長は……そいつを許すんですか!?」
「許したわけじゃない」
「じゃあ……!」
「けれど、唯一言えることは……今この場での“悪女”は、あなたたちのほうよ」
顔面蒼白になる3人は、恋焦がれる神亀に助けを求めた。
その淡い期待は、あっけなく砕かれる。
「優木まりあって、意外といい子だよ。意外とね」
「うそ……」
「きみらが、次の“悪女ちゃん”になるの?」
彼はアタシのほうに身を寄せ、不敵な笑みを向けた。
右に、神亀。
左に、お姫さま。
最強の布陣で固められた今のアタシに、太刀打ちできる者などいない。
半泣き状態の3人は、耐えきれずそそくさと逃げていった。
「追いかけようか?」
「……ううん、大丈夫」
「そ?」
体に痛みはあったけれど、彼女たちの心も痛かったはず。
今回の原因をつくったのは、こちらだし、これ以上追い詰めたくない。