マリアの心臓



耳を塞いでしまわなくてよかった。

彼女の美しい声を、聞き逃してしまうところだった。


劇じゃなくなっても、姫そのもののような矜持を持っているなんて、かっこよすぎる。




「少なくとも、この子は正々堂々と言葉で伝えてくれたわ」




見惚れていたら、彼女もこちらを見て、ほほえみかけてくれた。

やっぱり、アタシ、彼女のことは「お姫さま」って呼びたいよ。




「か、会長は……そいつを許すんですか!?」

「許したわけじゃない」

「じゃあ……!」

「けれど、唯一言えることは……今この場での“悪女”は、あなたたちのほうよ」




顔面蒼白になる3人は、恋焦がれる神亀に助けを求めた。

その淡い期待は、あっけなく砕かれる。




「優木まりあって、意外といい子だよ。意外とね」

「うそ……」

「きみらが、次の“悪女ちゃん”になるの?」




彼はアタシのほうに身を寄せ、不敵な笑みを向けた。


右に、神亀。
左に、お姫さま。

最強の布陣で固められた今のアタシに、太刀打ちできる者などいない。


半泣き状態の3人は、耐えきれずそそくさと逃げていった。




「追いかけようか?」

「……ううん、大丈夫」

「そ?」




体に痛みはあったけれど、彼女たちの心も痛かったはず。

今回の原因をつくったのは、こちらだし、これ以上追い詰めたくない。


< 70 / 155 >

この作品をシェア

pagetop