マリアの心臓
お姫さまは、ファンクラブからは除名しておくと言って聞かなかった。
ここで会長の権限をフル活用しなくてもいいのに、と思う反面、味方になってくれたことがどうしようもなくうれしく感じてしまう。
「てか、こういうときって、ボクが活躍しちゃっていいの?」
「いいのよ、あなたがたまたまそこにいたんだから」
「わあーすげーテキトー」
「それに、衛さまのお手をわずらわせるわけにはいかないでしょ」
「あ、ボクならいいんだ?」
「3年の言うことは聞きなさい、後輩」
「急な年功序列~? まあいいけど」
何ごともない昼休みかのような会話。
ふたりはどこまでも自然体だった。
気遣ってくれてるんだろう。
おかげで安心できる。
「ふたりとも、ありがとう」
「どーいたしまして」
「別に、いいのよ。わたしは、ただ、お願いされて……」
「あああっ、ちょ、しぃっ!」
いきなり大きな声を上げた彼に、言われたとおり口を真一文字に引き結ぶ。
ヘッドフォンに念入りに耳を傾けたあと、ゆるゆると彼の表情がほころんでいく。
「……な、なにごと?」
「ん? あー、ごめんごめん。今いいとこだったからさ」
「いいとこ?」
「コレでいもーとの声、聴いてんだよね」
「声を、聴く??」
「……それって盗聴じゃないの。犯罪よ」
「どちらかというとASMRの類だから、良し」
「良しじゃないわ。まったく……」
ため息をつかれても、おかまいなし。
ヘッドフォンをいとおしそうに撫でる。
「ぜーんぶ把握しとかないと、いつ連絡が途絶えるかわかんないじゃん?」
「じゃん、って言われても……」
「……そうだね!」
「いや、そこはつっこみましょ?」
異様に説得力を感じまして。
そもそもこうやってお話できていることが幸せでして。
ついつい破顔してしまえば、お姫さまも可憐に目元を垂らした。