LOVEHATE~御曹司社長と黒い子作り婚~


「車がないと、こんな時不便。
千花ごめんね」


そのドレスショップへと向かうタクシーの中で、眞山社長にそう謝られて。


え、と彼の顔を見た。


「何で謝るんですか?」


「ほら、車があったら、今日も迎えに行ってあげたり、帰りも送ってあげるのに」



「いえ。そこまで気遣って貰わなくても」


それにしても、何故、車がないのだろうか?


「今、免停中で。この前、朝遅刻しそうでちょっと飛ばしちゃって」


車がないのではなくて、現在免許が使えないって事なのか。


「それで、最近は朝奥村さんと出勤されてるんですね?」


「そうそう。無理言って朝迎えに来て貰ってる。
ほら?うちの会社にも運転手は居るんだけど。
会社の車ってなんか嫌いなんだよ。
後部座席に座らさせられて、いかにも、って感じで」


そう言われ、重役達が送迎に乗っている車を思い出すが、どれも高級車ばかり。


そして、後部座席にみんな乗っている。


「今度、千花も一緒に美帆子の黒いベンツで出勤しない?」


「いえ。私は皆さんより出勤時間が早いので」


受付は、他の社員よりも出勤時間が少し早い。


その代わり残業もなければ、暦通りきっちりと休みが取れるけど。



「そう。残念」


「奥村さんって、黒いベンツに乗ってるですか?」


あの可愛い容姿で、その車って。

そのギャップがいい。


「そう。大切なものらしいよ」


そんな高級車ならば、大切に決まっているだろう。


と、思ったけど。


もっと、深い意味があるのだろうか?


「それにしても、眞山社長、わざとドレス選びの時間詰めて入れましたよね?
顔合わせの食事会を早く切り上げる為に」


時間の計算間違い以前に、もっと余裕を持って予約する事も出来たはず。


「ほら、俺ら普通の結婚じゃないから、あの場で会話する上で、あまり嘘を重ねるのもしんどいだろ?
そうは言っても、一度くらいは顔合わせくらいはしておかないと、うちの母親が不審がるし…。
ああいう、堅苦しく白々しい場は苦手なんだよ」

そう、苦笑する眞山社長に、私も同じく苦笑を返す。


白々しい、か。


確かに、あまり長い時間は居たくない場だった。


早くお開きになって、良かった。
< 41 / 148 >

この作品をシェア

pagetop