お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「それと君に会ったとき、なんだか安心するというか、落ち着くというか……とても気になって」

「だから今日、食事に誘ってくれたんですか? わたしに聞きたいことがあると言っていたのも、香りのことだったんですね」

 なんだ、わたしの香りが気になっていただけだったのか。

 期待していたものとは違って勝手にがっかりしてしまうが、なるべく表情には出さないようにする。

「わたし、香水をつけています。友達にもいい匂いだって言われていて」

「どこのブランドなんだ?」

「祖母からもらっていて、いつも小瓶に分けられているから詳しくは……」

「……そうか」

 周りの人たちに知られたくないと言っていたから、きっと涼本さんは疲れやすいことを会社の人には話していないのだろう。

 困っている彼になにか気の利いたことを言おうと思うのに頭が働かない。
 先ほどまで浮かれていた気分がいっきに冷めていく。

 涼本さんが興味を持っていたのはわたしの香りで、今日食事に誘ってくれたのも香りを知りたかったからだろうな。

 わたし自身に特別な感情を持っていたわけではなかったということ。
 誘われて、連絡先を聞かれて、自分なんかがと思っていても好きな人から積極的にされたらそれはうれしかったし、ドキドキしてしまった。

 勘違いしたままにならなくてよかった。

 そう思ったとき、オーダーした料理を店員が運んできて、わたしの目の前にちらし寿司が置かれる。涼本さんの料理も置かれると、彼は店員が去るのを見届けた後呟くように口を開いた。

「君と俺、昔会ったことがある気がする」

「ええっと……涼本さんのような人に会っていたら、わたし絶対に覚えていると思うのですが……人違いとかでは?」

「そうだろうか」

 涼本さんはわたしのことを見つめながら首をかしげる。
 例えば、同じ香水をつけている人とわたしを間違えているということはないかな?

 だって本当に、涼本さんと出会っていたら忘れないと思う。こんなにかっこいい人、わたしの周りにはいないから。

 もしわたしと誰かを勘違いしていて、その誰かが涼本さんの特別な女性だとしたら、香水の匂いが気になってしまうのも納得できる。

 わたしと同じ香りの忘れられない人とか……。
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