お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「俺、二年前まで商品企画部にいたんだ」

「えっ、そうだったんですか」

 室内の電気をつけたわたしは、驚きながら振り返る。

「結婚して子供が生まれて、奥さんも働いているからもう少し子供の面倒を見たいと思うようになって、家族との時間が欲しくなったから異動願いを出した。商品企画部は、残業が多かったから。仕事も家庭もって両立するなら俺はもう少し仕事の余裕が欲しいと思ったんだよね。あ、総務の仕事を軽く見ているとかではないからな」

 こちらの反応を窺うような仕草をした川杉さんに、わたしはうなずいて笑顔になる。川杉さんがいつも真面目に仕事に取り組んでいることは、一緒に働いていてわかるから。

「俺が商品企画部にいた頃から、涼本は周りから期待されていたよ。社長の息子っていうのがあるから、どこまで能力あるのかって目を向けられていたし、実際に同期の中でもずば抜けて仕事ができていたと思う」

「さすが涼本さんですね」

「うーん……。俺はちょっと心配だったかな」

 心配? 期待をされて仕事もできる涼本さんにたいして、なぜそう思ったのだろう。
 わたしは考えながら話を聞いていた。

「入社してすぐに社長の息子っていう目で見られて能力測られるのは、プレシャーを感じるんじゃないかって。涼本は平気そうに仕事をしていたけど、俺はやっぱり気になってよく声をかけていた。でも、頼られるより俺が頼ることのほうが多かったかもしれないけど」

 奥の棚に並んでいる資料の入った段ボールを下ろした川杉さんは小さく笑った。

 そうか……。涼本さんが活躍しているという話ばかりを聞いてきたけれど、期待に応えるということがどれだけ大変か、わたしは考えていなかった。

 本人は自覚がなくても、いろいろなことにたいしての疲れが溜まって不規則な生活と重なり、体調に影響したのかもしれない。
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