お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 ふたりでキッチンに立ちながら、朝食の支度をしていく。

「昔はこんなふうに朝パンを焼こうなんて思わなかった」

 しみじみとそう言った司さんに、わたしは微笑む。

「おはよう、ただいま、おかえり、おやすみなさいを司さんと言い合えてわたしはうれしいです」

 司さんは穏やかな表情をしてわたしの頭を撫でると、「俺もだ」とうなずいた。
 改めて言うのは照れてしまうけど、こうして伝え合うことって大事だなと感じる。

 彼の優しい眼差しにときめきながら、わたしは朝食の準備を続けた。



「振り返ると、最初から本当にまさかの連続だったよね」

 会社の食堂で感心するようにそう言った紗子は天ぷら蕎麦をすする。熱そうに食べている彼女と向かい合うわたしも、同じものを食べながらうなずいた。

 今度一緒に買い物に行こうという話になって、それから紗子の恋人の話になり、その流れで司さんの話になった。

 司さんとお付き合いをはじめて、ときめく日々はあっという間でもうすぐ半年になる。紗子には司さんのこと、いろいろ話してきたから振り返られるとちょっと恥ずかしい。

「香菜ったら、最初は『たとえ連絡先が聞けなくても、見ているだけでも、本気で好きって思っていてもいいよね!?』ってかわいいこと言っていたよね!」

「ううっ……あの頃は想いが通じるなんて思っていなかったし……」

「それから急に一緒に住みはじめて、いつのまにか付き合っていて! もう驚きの連続だったし、あのときは遊ばれていないかちょっと心配だったし」

 そう言った紗子は微笑む。
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