お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「本物か」

「そうですよ」

 いたずらっぽく微笑みながらわたしに触れる彼に、胸の奥が温かくなってくる。

「どうかしたのか?」

 わたしが会議室に急に来たから、なにかあったのかと思ったのだろう。
 小さく首を横に振ったわたしは笑みを作る。

「会いたくて、来ちゃったんです」

「そうか。今日も早く帰るよ」

「はい、待っていますね!」

 大丈夫。こんなふうに優しく触れてもらえるのだから、司さんは急に離れていったりしない。

 もし本当にお見合いの話があって、相手とどうしても会わなければならないなんてことがあったら、ちゃんとわたしに話してくれるよね?

 わたしは司さんのことを見つめながらそう思っていた。



 それから数日。
 司さんはお見合いの噂についてなにも言ってはこなかった。

 やはり噂なだけだったのだろう。そんなふうに思っていた。

 昼食をとった後、好きな飲み物でも買って午後の仕事のために気分を入れ替えようかなと、休憩スペースの自販機に立ち寄る。

 自販機でミルクティーを選んで、出てきた小さいペットボトルを取りだそうとしたとき、ふたりの女性社員が話をしながら休憩スペースに入ってきた。

「そういえば、さっき涼本さんがロビーで女の人と話しているのを見たんだけど、あの人ってたしか噂になっている人だと思う」

「あっ、取引先の秘書だっけ? たしか、うちの会社にも来ること多いって聞いたけど」

「そうそう! たぶん、さっき話していた人がその人だと思うんだよね。やっぱり結婚するのかな? うちの社長も激推ししているって話だし」
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