お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 ミルクティーを手に持ちながら聞こえてしまった女性たちの会話に、心がざわざわして落ち着かなくなってくる。

 気分を入れ替えるどころか不安になってしまった。
 お見合いの話は本当なの? 社長……つまり、司さんのお父さんがその秘書の女性を激推ししているってことは、本気で……?

 司さんからはなにも言われていない。だからわたしがいちいち気にしなくてもいいのに、ダメだ、どうしてもお見合いのことを考えてしまう。

 暗い気持ちが晴れないまま午後の仕事に取り掛かり、業務中はいつも通り集中した。
 備品庫の点検を終えて総務部に戻る途中、通路をひとりで歩いていたわたしは、思わず大きなため息をついてしまった。

「なんだよ、でかいため息だな」

 はっとして振り向くと、神坂さんがこちらに向かって歩いて来ている。

「こ、こんにちは、神坂さん」

「どうした、暗い顔して。涼本と喧嘩でもしたか?」

 からかうように笑う神坂さんを、わたしはどんよりとした顔で見た。
 その様子に彼は意外だと言いたげに「マジで喧嘩?」と聞いてくる。

「喧嘩ではないんです……」

「じゃあなに?」

「ちょっと落ち込むことがあって」

 司さんと同期の神坂さん。最初は嫌な人なのかなと思ったけれど、なんとなく彼は話しやすいと感じていて……つい自分の今の状態を正直に吐露ししまう。

「あいつがお前を悩ませるようなことをしそうにないけどな」

「……司さんに確認したわけではないのですが、彼がお見合いをするという噂があるっていうのを聞いてしまって」

 神坂さんなら、なにか知っているかもしれない。
 そう思って聞いてしまったけど、神坂さんははじめて聞く情報だったらしい。
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