お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「ふうん……そんな噂があるのか。涼本はいつも通りだけど。気になるのなら、直接本人に聞くのがいいだろ」

「そう……ですよね」

 ひとりで勝手に不安を感じていてもしょうがない。
 わかっていても表情を暗くしてしまうわたしに、神坂さんはため息をついた。

「お前、面倒臭い女だな」

「わかってます」

「……ほら、元気だせ」

「わっ……!?」

 神坂さんがわたしの頭をくしゃくしゃと撫でてきて、髪がぼさぼさになる!と慌てていると、最後に優しくぽんぽんと手を置かれた。

 たぶん、神坂さんなりに励ましてくれているのかな。
 この前も、なんだかんだ言ってわたしが前向きになれるようなことを言ってくれた。

 いい人だなと思ったわたしは、乱れた髪を直しながら小さく頭を下げた。
 すると神坂さんは意地悪っぽい笑みを浮かべて、軽く手を上げながら去っていく。

 その背中を見つめた後、ふう、と息をついたわたしは総務部に向かって歩き出した。




 気にしてもしょうがない。
 そうやってひと言で済ませようとするのに、司さんのお見合いの噂を思い出して結局気にしてしまう自分がいる。

『見合いをすることになった』って言われたら、わたしはどんな反応をするのが正解なのか。

 一応顔を合わせるだけで断るつもりだと言われたとしても、これから何度もそういうお見合いの話しが彼のもとに届くのだろうか。

 それはしょうがないんだって思わなければいけないのかな?
 この数日間、そんなことを家に帰るたびに考えて気持ちが落ち込んでいた。

「体調悪いのか?」

 夕食後、ソファでぼうっとしていたわたしの隣に座った司さんが心配そうに尋ねてくる。

「このところ元気がないだろ」

「そ、そうですか?」

「ぼうっとしていることが多いし、食事もあまり……なにか悩み事でもある?」

 彼の問いかけに、わたしは口を開きかけて動きを止めた。
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