財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
「……お母さん」

 私の声にハッとなり肩をピクッとさせた母は、手を顔の方にやってから振り返る。それからすっくと立った。

「綺麗にハーフアップに出来たわね。じゃあ、着付けてしまいましょう」

「う……ん」

 母の目は少し赤いような気がするが、すぐに台の上に置いてある肌襦袢の方へ体を向けたのでわからない。

 なにか言葉をかけなきゃと思うが、母の様子に当惑してしまい無言になってしまう。

「ほら、なに突っ立ってるの? 服を脱いで下着を身につけて」

「あ、はいっ」

 機敏ないつもの母に戻っていて、急いでブラウスとスカートを脱いだ。

 振袖は鮮やかな赤で、雪(ゆき)輪(わ)に菊(きく)牡(ぼ)丹(たん)の柄が入っており華やかだ。袴を黒にして、メリハリのあるはっきりした和装にした。というのも、普段は華道家として主役の作品を邪魔しない、強すぎない色合いを選んでいるため、赤い着物は憧れだったのだ。

 やはり母の着付けは上手い。これなら着崩れることなく帰宅できそうだ。

「素敵よ」

 鏡に映る自分の姿をチェックしていると、隣に立った母がにっこり笑う。
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