愛しの鳥籠〜完結篇〜
だから式は北欧で。と言うユキの願いを叶えてあげたかったのに…。
「…ラン?どうしたの?ボーッとして」
まだどこか不機嫌な口調で、それでも心配そうにユキがわたしの顔を覗き込んできた。
「っ、ううん。新婚旅行にはきっと北欧巡りしようね」
「『きっと』じゃない。『絶対』だよ」
ユキは自信に満ちていた。
「…そうだね」
わたしは力なく頷く。
ユキは、『きっと』気付かない。
でも、それでいい。まだ気付かないで。まだ。
「それにしても春分の日が過ぎたと言うのにこの寒さはなんだよ」
しまいには天気にまで当たり始めたので、わたしは堪らず
「早く家に帰ろう?そうしたらジンジャー多めのチャイを淹れてあげるから」
そう宥(なだ)めると途端にユキの表情が晴れて、
「ランがスパイスから調合して淹れてくれるチャイ、すげぇ好き!」
怒りで濁っていた眼が今はキラキラとした輝きさえ放っている。