英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

何の途中!?




すでに夜になっていた。
月明りだけが指す薄暗い部屋の中で、ベッドに2人。
ノクサス様の腕の中で、直接肌と肌が密着して彼の体温を感じていた。

「……ノクサス様。皆様は大丈夫でしょうか?」
「そうだな……そろそろ帰ってくるかも知れないが、明日でもいい」

むしろ、明日にしてくれと思っていそうだ。
いや、私にとっても今すぐに報告に来られるのは困る。
なぜなら、私とノクサス様は全裸でベッドに転がっているからだ!
しかも、ノクサス様は腕の中から放してくれない!
今も楽しそうに頭の頂点を何度も何度も、キスをしている。

「……き、きっと報告に来ますよ。今のうちに服を着ないと……」
「……まだ、来てないから大丈夫だろう。……それより、もう一度……」
「ダ、ダメですよっ! ちょっと休まないと……っ」

正直言って、ちょっと痛かった。
それにノクサス様は呪われているのに、どうしてこんなに元気なんだろう……。
魔喰いの魔石を埋め込むまでも、それなりに元気だったし、今も獣化を抑えたばっかりなのに……体力お化けに見えてくる。

「お腹も空きました。なにか食べましょう。皆様が帰ってきたら食事も出してあげないと……」
「食事はアーベルが準備するから大丈夫だ。……ダリアのは、ここに持って来させよう」
「そ、それはちょっと……」

こんなところに持って来られたら、なにをしていたか一目瞭然だ。
しかも、ベッドに裸ですよ!

「ノ、ノクサス様。食堂に行きましょう!」
「しかし……無理をさせたのではないか? 疲れているみたいだし……」
「じゃあ、休ませてください」
「まぁ……朝まで、時間はあるし、少しぐらいなら……でも、食堂に行く体力があるなら、もう一度相手をして欲しいのだが……」
「んんっ……!」

そう言って唇を塞がれる。
今のノクサス様の頭の中には、私のことしかないようだった。
皆が仕事に行っているのに、当事者がこんなことをしていていいのだろうか。

コンコンッ______。

「ノクサス様。フェルです。ご報告に参りました。入りますよ」

報告が早い。フェルさんは優秀だ。
でも、ちょっと待って!!

ノクサス様に唇を塞がれているから、声は出なかった。

「ノクサス様。ランドン公爵令嬢様ですが……」

薄暗い部屋に入ってきたフェルさんは、ベッドにいる私とノクサス様を見て立ち止まった。
フェルさんの顔を見なくてもわかる。
私に覆いかぶさっているノクサス様。それを見て絶対に驚いて立ち止まっているんだと!

「すみません。お邪魔でしたか……!」
「もう少し後でもいいぞ」
「そうします」

フェルさんは、ノクサス様の邪魔をする気はない。
でも、こんなところを見られて、「さぁ、続きをどうぞ」とノクサス様に足を開く神経は私にはない!!

「邪魔ではありません!! すぐに報告を聞かせてください!!」
「しかし……途中でやめるというのも……」

何の途中!?
フェルさん!? 何の途中ですか!?

「……くくっ……フェル。着替えたらすぐに行く。青の間で待ってろ。ついでに食事も出して置け。お前たちも疲れただろ」
「かしこまりました。……ゆっくりと食べさせてもらいます」

私の慌てる姿が可笑しかったのは、笑われてしまった。


「……ノクサス様。着替えましょうね……」
「名残惜しいが仕方ない」

そして、どんな顔をしていいのかわからず悩みながらも急いで着替えた。



青の間では、アーベルさんがすでに食事を並べており、各々がすでに食事中だった。
みんなが私とノクサス様を見るけれど、すぐに何事もなかったように、シチューやサンドイッチをほおばっていた。

フェルさから、私とノクサス様がなにをしていたかは聞いているだろうに、慌てる人なんていない。
気にしているのは、私だけなのだろうか。

「……どうした? ダリア」
「……みんな普通です……」
「皆それなりに経験があるだろうから、慌てる奴なんていないぞ」
「それも騎士のたしなみですか?」
「変なことを言うんじゃない」

ノクサス様に手を引かれてソファーに座ると、アーベルさんが「どうぞ」とサンドイッチを出してくれる。
隣にいるノクサス様は、座っても肩を抱き、満足気な顔で見ている。

「……いただきます」

恥ずかしながらもそう言って、サンドイッチを食べた。

「ノクサス様。ランドン公爵令嬢様は捕らえました。今は、高位の貴族の入る牢に幽閉してます」
「魔物の核はあったのか?」

フェルさんの報告に、魔物の核が見つかったのだと確信した。
でなければ、捕らえるための理由がない。

「ありました。ダリア様の言う通りです。あれは魔法使いが持っていました」
「魔法使いも見つかったのですか?」
「はい。ランドン公爵令嬢様の侍女が魔法使いでした。ランドン公爵令嬢様といつも一緒に行っていたのは、侍女名義で用意した小さな家でした。まさか、侍女が魔法使いと思わず、共に行動していても、侍女がお供ぐらいしか思いませんでしたよ……これは、ロバートの手柄ですね。メイドからの情報がなければ、たどり着くのに苦労するところでした」

侍女が魔法使い。確かにそれなら、なかなかわからなかっただろう。
魔法使いなら仕事もあるのに、侍女になる人なんてそう聞いたことがない。
それに一緒にいても、だれも違和感もない。

「ノクサス様。魔物の核は、呪いを増幅させているせいで、今破壊すると周りに呪いが溢れるかもしれないので、もう少し浄化して破壊します」

ノエルさんが、そう言った。

「今はどこにある?」
「ミストと少しだけ浄化して、私が持って来ました。魔喰いの魔石を置いていたヤドリギに置いておけば自然と浄化されますから、私が定期的に浄化の魔法をかけます。瘴気が今よりも薄くなれば、ミストと破壊します」

ノエルさんは、ミストのおかげで助かったというように、優しく魚パイをかじっているミストの頭を撫でた。

「その侍女はどうしました? 呪いが返されていたのではないですか?」
「かなり返されていました。ダリア様が最初から呪いに抵抗していたからでしょう。そのせいで、呪いを増幅しすぎて黒いモヤの中で倒れていたんです。そのおかげであっさりと捕まえられました」

大丈夫だろうかと、心配にはなる。
でも、ノクサス様にしたことはやっぱり許せない。

「自業自得だ。それに、どうせ魔物の核が破壊されれば呪い返しも終わる。それまでは、罰とでもしておけばいい」

ノクサス様は迷いなく、そう言った。

ランドン公爵令嬢様は、この後は辺境の修道院に送られる。
すごく厳しいところだと聞いた。

ノクサス様の呪いが公にされなかったから、幽閉することができないのだ。
彼の呪いを、記録に残すわけにはいかない。
隠していた事を、今更公にすることはできない。

それに、戦争が終わっても、この国の騎士団を率いる大事な方だ。
呪われていたなんて、陛下たちは発表するつもりはないのだろう。
だから、アシュトン殿下もランドン公爵令嬢様の逮捕に協力したのだ。
私は、もうランドン公爵令嬢様に会うことはない。
でも、ノクサス様はこれから後始末に追われるのだ。

「……しばらく忙しくなるかもしれないな。だが、結婚の準備は滞りなく進めてくれ」
「かしこまりました」

アーベルさんが、笑顔を浮かべて一礼した。

「ダリア。準備が出来しだい結婚だ。楽しみだ」
「はい……私も楽しみです」

ノクサス様と結婚すると思うと、胸が温かくなる。
そんな照れた様子の私をノクサス様は愛おしそうに見つめていた。








< 51 / 52 >

この作品をシェア

pagetop