魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「あのね、有識者と議論して、あなたの浄化の力が限定的になってしまっているのは、魅了魔法に魔力を取られているからじゃないかと考えてるの」
「魅了魔法のせい?」
「そう。あなたの浄化魔法はそんなものではないはずなの。疫病なんて、ぱぁっと浄化してしまうはずなの」
「ぱぁっとですか?」
 
 妙に確信めいてエブリア様がおっしゃった。
 まるでその様子を見たことがあるみたいに。
 もし本当にそうなら、私は本来の浄化能力を取り戻したい。

(結局、すべての元凶が魅了魔法みたいね)

 それさえなければ、私はもっと心穏やかに生きてこられたかもしれない。
 つい遠い目になってしまった私をエブリア様の声が引き戻す。

「それでね、オランの師匠のところに行ってほしいと思っているのよ」

 オランの師匠は魔女だって聞いた。魔女といえば、おどろおどろしい材料で呪いの道具や薬を作っていたり、出会った人をカエルに変えたりなんて噂されていて、少し怖い。
 でも、それが必要なら……。

「行きます!」
「心強いわ。ご高齢で呼び寄せられなくて、こちらから出向くしかないのよ。多分、彼女ならあなたの状態を治してくれるはずだわ」

 エブリア様がぱたぱたと扇子を動かして、微笑まれた。
 それが本当ならなんとしても行かなきゃ!

 私が決意を固めていると、エブリア様が詳しく話してくださった。

 魔女の居場所は、国の外れの森の奥で、ここから二週間ほどかかるらしい。
 見張られているのと、時間がないのとで、できれば今すぐ出発してほしいと言われた。
 用意はできているし、道案内はオランがしてくれるという。

「今すぐ……」
「そう。申し訳ないのだけど、本当に時間がないの」

 真摯な顔でエブリア様が訴える。

「たぶん、このままだと一月後の卒業パーティーで私はスウェイン様に婚約破棄されるわ。あっ、婚約破棄されるのが嫌なんじゃないから!」

 いつものツンデレなエブリア様のセリフだったけど、今回は様子が違った。

 政治が機能していないので、宰相のケルヴィン公爵が独断でで人を動かして、疫病の広がりをなるべく防いでいるのだけど、限界があるし、エブリア様が婚約破棄されてしまうと、ケルヴィン公爵家の権力が弱まる。つまり、今なんとか維持している政局が破綻する。その前に戻ってきてほしいのだと説明してくれた。

「勝手な都合でごめんなさい」

 申し訳なさそうに謝ってくれるエブリア様に、とんでもないと首を振る。

「私の方は大丈夫です」

 傍らに控えているカイルを見上げると、同意するようにうなずいてくれた。
 私はカイルがいれば、どこへでも行ける。

「よかったわ」

 明るい表情になったかと思ったら、エブリア様がふといたずらっぽい顔になった。扇子を広げて、顔を寄せて聞いてくる。

「そういえば、ずっと気になっていたんだけど、あなたの身分違いの恋人のこと……」
「恋人ではないんです」
「そうなの? でも、身分差に悩んでいるのなら、あなたの場合はどうにでもなるわよ?」
「えっ?」

 突然の話題転換に戸惑う。
 詳しく聞きたいけど、カイルが後ろにいるので、慌てて首を振ると、察してくれたエブリア様がふふっと笑って、人払いをした。
 部屋の外に出るように言われたカイルは抵抗しようとしたけれど、「カイル、お願い」と言った私の言葉に、しぶしぶと部屋を出ていった。
 エブリア様がなにを言おうとしているのか、とても興味があった。
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