魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

私、頑張ります!

「アイリ様、私たちもあとで王宮へ行きますから」

 エブリア様が繰り返し、慰めるように背中をさすってくれる。それどころか、メイドからおしぼりをもらうと私の手を拭いてくれた。
 白い布が赤く染まる。
 ふとカイルが横たわっていたところを見ると、血溜まりができていて、身震いする。

(カイルは本当に大丈夫なの?)

 泣きそうになりながら、エブリア様にすがるように聞いた。

「カイルのところへ行くのですか!?」

 それに対し、すまなそうな顔をして、エブリア様は首を横に振る。

「ごめんなさい。カイルは医師に任せて、まずは王宮の浄化をしてほしいの。この国の混乱を治めなくては」

 その口調は高位貴族のものだった。
 でも、その手はハンカチで私の涙を拭いてくれる。
 やっぱりエブリア様はお優しい。
 
(そうね……。そうだったわ。疫病も治めなくてはいけない)

 私は聖女という立場を思い出した。
 カイルのことは心配でならない。でも、現状、私にはどうすることもできない。それなら、私にできることをするしかない。
 
「私からも頼む!」

 王太子殿下が頭を下げた。正直、彼にはいいイメージはなかったけど、こうして下げなくてもいい頭を下げてくれるところはエブリア様から聞く王太子殿下のイメージと一致した。
 周囲がざわついた。
 ハッとした私は慌てて顔をあげてもらう。

「殿下、私相手にそんな必要はありません! ちゃんと聖女の役目を果たしますから!」
「そうか、助かるよ。君の従者は責任持って治療に当たらせる」
「よろしくお願いいたします」

 今度は私が深く頭を下げた。
 王太子殿下は大きくうなずいてくれる。
 真剣な目で私を見る姿は信じられた。

 それから、エブリア様と王太子殿下は、現状把握と対策を話し合われ、そこにオランも加わり、旅の道中のことを報告していた。
 ミステリアス様は昏倒したまま捕らえられ、王太子殿下が側近や近衛兵に指示を飛ばしていた。

「私たちも王宮へ向かおう」

 王太子殿下の言葉に一同が彼専用馬車に乗り、王宮を目指すことになった。
 
< 69 / 79 >

この作品をシェア

pagetop