因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
香炉の中央から立ちのぼるあたたかい空気が、香木の香りを立たせ始める。
光圀さんが私の前に、そっと香炉を置いた。受け取った香炉を鼻に近づけ、ゆっくり息を吸う。
上品でどこか懐かしい香りに、考えることに疲れていた脳が癒されていく。
もうひと息吸うと、今度は香りが胸にスッと染みて、抱えていた悩みの数々が整理されていく。最後に、もうひと息。彼に伝えたい気持ちが、くっきりと鮮明になる。
香炉を畳の上に下ろし、私は光圀さんを見つめる。自然と浮かんだ涙で、彼の姿が揺れた。
「私は昔から、光圀さんには立派な家元になってほしいと思ってきました。そして結婚してからは、光圀さん個人だけでなく、醍醐流香道がもっと世間に認められて、発展してほしい。心からそう思うようになりました。でも、光圀さんを好きになればなるほど、それと矛盾した気持ちも生まれて……」
私は家元である彼の妻になっただけではない。光圀さんに、本気で恋をした。
だから……醍醐流のためだけになにもかもを我慢して、自分を殺すなんて無理だ。