因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「おはようございます、光圀さん」
「先生。朝のお勤め、お疲れ様でございます」

 師匠の登場とあって、伊織さんは背筋をぴっと伸ばして、緊張感漂う表情になった。

「おはよう、よく眠れたか?」
「はい。寝すぎたくらいです」
「それはなによりだ。朝食は?」
「まだです。今、伊織さんに付き添ってただいて、皆さんにあいさつをしている途中で」

 固い表情のまま小さく頷く伊織さん。

 素朴な親しみやすさはすっかり消えてしまい、彼にとって光圀さんがどれだけ絶対的な師匠なのかが垣間見えた。

「では、残りは俺が付き合おう。伊織は下がっていい」
「はっ」

 伊織さんは顎を引き、素早く私たちの前を去った。

 朝日の差し込む長い廊下を、今度は光圀さんと並んで歩く。

「光圀さんは、毎朝座禅を?」
「そうだ。香りを聞き分けるには心を無にすることが重要だからな。その状態を、仏教では(くう)という」
「香道は仏教と深くかかわりがあるって、私も少しだけ勉強しました。でも、雑念をなくすの大変じゃないですか? お腹すいたな、とか」

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