没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
自分との結婚ために身を削ってくれる彼に感謝し、静かに胸を高鳴らせるオデットであった。



晩秋の日暮れは早く、十六時の空は燃えるように赤い。

一週間の帰省を終えてオデットがカルダタンに着いたのはつい先ほどで、ブルノに挨拶した後はベージュのコートも脱がずにまた外へ。

訪ねたのは、隣のコロンベーカリーだ。

「いらっしゃ……やあ、オデット。帰ってきたんだね」

客足の途切れた店内の会計カウンターから声をかけてくれたのは、ルネの父。

「はい。今着いたところです。それでこれはお土産です。皆さんで召し上がってください」

カウンターに歩み寄り、両手に抱えていた麻袋をドサッと置いたら、奥の調理場からバタバタと騒がしい音がした。

扉が勢いよく開いて、粉まみれの手をはたきながらルネが出てくる。

「首を長くして待っていたのよ」

オデットの両肩を掴んで目をかがやかせるルネは、「で?」と笑顔で問う。

「ルネ、ただいま。お土産はその麻袋の中よ。お父さんが育てて収穫したジャガイモなの。ホクホクしてすごく美味しかったわ」

「お父さんのジャガイモ?」

< 206 / 316 >

この作品をシェア

pagetop