没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
今回の帰省でジェラールがオデットの両親に挨拶するという予定だけ話したので、ルネは輿入れに向けての進捗状況を聞きたいのだろう。

「ル、ルネ、落ち着いて――」

オデットが片足を引いたらドアベルが鳴る。

お客さんかと振り向いたが、現れたのはジェラールだ。

お忍び用の眼鏡をかけていても貴族的なマントを羽織り、平民になりきれていない彼がオデットを抱きしめる。

「会いたかった。オデットのいない数日が、数か月に感じたほどだ。毎晩夢に出てきてくれたから、なんとか耐えられた」

恋しがってくれたことに頬を染めて喜んだオデットだが、同時に罪悪感も覚える。

(リュカと全力で遊んでいた私は、疲れて夜はぐっすり眠って夢を覚えていないわ)

私も寂しかったと嘘をつくことができず返事に困ったけれど、抱擁を解いたジェラールがオデットの手首を掴んでドアへと向かった。

「ブルノさんに聞いたよ。戻ったばかりだから、今日も休みをもらっているそうだね」

「はい。明日からでいいと言われています」

「それじゃ行こう。これ以上長引かせるのは我慢ならない。今日中に決着をつけるつもりだ」

「え?」

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