没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
店の前で白馬が一頭待っていた。

オデットを馬の背に押し上げて、その後ろに跨ったジェラールが手綱を持つ。

ルネの父親はポカンとしているが、ルネは店先に出てきて大興奮だ。

「キャー、また白馬! どこに行くのか知らないけど、いってらっしゃい!」

「い、いってきます……」

速足で歩きだした馬は、中央区に向かっているようだ。

密着する体に伝わる温もりと道行く人に指を差される恥ずかしさで頬を染めつつ、オデットは問いかける。

「どこへ行くんですか?」

「それは後で。順を追って話そう」

ジェラールは、オデットの実家で読んだ先代当主の日記から説明する。

「先代のログストン伯爵は、レオポルド伯父上が王位を継ぐのを応援していたのは確かだが、親交が厚いわけではなかったんだ――」

あの日記は三十三年前から五年分の毎日が綴られており、その中でレオポルドと対面したという記載はわずか四か所であった。

それも一対一ではなく、晩餐会や国政会議で言葉を交わした程度である。

残念ながらレオポルドの弟に対する想いを聞かされるほどの間柄ではないとわかったが、ひとつ気になる情報を見つけた。

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