没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
馬が足を止めたのは、グスマン伯爵邸の前だ。

ルビーのついた銀のスプーンの件で二度訪問したのは、まだ記憶に新しい。

ジェラールが挑戦的に目を光らせる。

「そう。ガレは、グスマン伯爵邸の執事だ」

出会った時に執事なのに不愛想な人だと少しだけ引っかかりを覚えたが、それはジェラールがレオポルドを追い詰めた国王の息子だからだろう。

感情を隠せなかったということは、国王と同じようにガレも三十年前の出来事を引きずっているのかもしれない。

公式発表は事故死だが、側近のような働きをしていたガレは、レオポルドが自死したことを知らないはずはないだろうから。

開いていた門から入り、馬を玄関アプローチの横の馬留に繋いだ。

両開きの玄関ドアの前に立ったジェラールは、変装の必要がないため眼鏡を外す。

半歩下がった位置にいるオデットは、緊張して無意識にジェラールのマントを掴んでいた。

ジェラールがドアノッカーを叩いたら、数秒して応対に出たのはガレだ。

今回の訪問を事前に知らせていないため眉を上げたが、その眉間にたちまち皺が寄り、招かれざる客が来たと言いたげな顔になる。

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