没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
政界を追放され利権を失ったレオポルド派の貴族たちは、三十年で財力も衰えた。

どの家も雇い人を減らし、かつてのような優雅な暮らしはできずにいる。

ガレもこれ以上は雇えないと解雇され、致し方なく中立派のグスマン伯爵に仕えているというわけだ。

誰のせいだと言いたげな視線を向けてくるガレに、ジェラールはここぞとばかりに同情する。

「この三十年、あなたが苦難の道を歩まれたのは想像できる。苦労させてしまったこと、父上に代わり謝罪しよう。申し訳なかった」

「謝罪などされたって、この悲しみや怒り、虚しさが解消されるはずないでしょう!」

ガレが急に声を荒げたから、オデットは肩を揺らした。

ジェラールは真顔で彼の怒りを受け止め、無礼だと咎めようとしない。

いやむしろ、ガレが押さえ込んでいた感情を引き出そうと企んでいるような気がする。

ガレは両手を握りしめ、わなわなと震えていた。

「レオポルド様はただの従僕だった私に、生きる喜びを与えてくださった太陽のようなお方でした――」

貧しいながら高等教育を受けて学び舎を首席で卒業したガレは、倍率の高い王城での採用試験に合格した。

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