没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「なるほど。それがあなたの目的か」

ジェラールは頷いて立ち上がり、ガレの前に立つ。

琥珀色の瞳は憐憫の情を浮かべているけれど、それでも言わなければと声を厳しくする。

「遺書はあるんだね。父上に後悔させたいと言うからには、遺書に綴られていたのは弟を思い遣る言葉だったのだろう?」

レオポルドは深い悩みの中にいたものの、日常生活の様子に変わったところはなかったと国王が言っていたそうだ。

精神に異常をきたしてのことではなく、覚悟の上の自死ならば、遺書があるはずだとジェラールは考えたらしい。

そしてジェラールの推測通り、遺書は側近のような働きをしていたガレが持っているようだ。

「伯父上の遺書はあなたが隠し持っていていいものではない。渡しなさい」

王太子として命じたジェラールに、ガレが片足を引き、唇を噛む。

「父上を逆恨みせず、悔しさは自己解決すべきだ。遺書には父上に宛てた伯父上の最後の願い書かれているはず。その遺書を自分の無念を晴らすために隠すとは許しがたい。忠臣の顔をして伯父上を裏切るな」

「違う、私はレオポルド様のために――」

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