没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
もう少し休んでからの方がいいと思ったけれど、政務が忙しい彼を引き留めることはできない。

「お忙しいのに会いにきてくださってありがとうございます。お疲れの時は無理なさらないでください」

ジェラールの右手を両手で握りしめ、オデットは微笑む。

いつもの彼なら笑みを返してくれるのに、なぜかつらそうな目でじっと見つめられた。

かと思ったら、急に目を逸らされる。

(殿下……?)

「また明日」

ジェラールはオデットの手を解くと、足早にカルダタンを出ていった。

(なんだろう。この気持ちは……)

胸に広がるのは、冬曇りの空のような不安。

「オデット?」

「あ、はーい」

けれどもすべてが順調なのだからなにも心配いらないと自分に言い聞かせ、賑やかなテーブルに戻るのだった。



* * *

二十時過ぎの晩餐室では国王と王妃、ジェラールの三人がテーブルに向かっている。

壁には有名画家の風景画が飾られ、天井からはシャンデリアが下がる豪華な設えで、テーブルは六人掛けだ。

空席三つは既に他家に嫁いでいるジェラールの姉たちの席である。

< 232 / 316 >

この作品をシェア

pagetop