没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
重たい空気が流れているのは、この先も使われないであろう空席の寂しさのせいではなく、気の毒にもメイドたちが笑顔のない国王一家の様子を窺うように給仕していた。

メイン料理の牛頬肉の赤ワイン煮込みが出された時、これまでなるべく冷静に話していたジェラールが、ついにたまりかねて声を大きくした。

「なんと申されましても、妃はオデット以外に考えられません。一度お認めになったのに、白紙に戻されては困ります。聖女が現れたから妃にしろなどと、冗談でもやめていただきたい!」

聖女の名前はサラ。

サラが降臨したのは三日前で、国王はすでに彼女と対面している。

誰が召喚したのかわからないが、三百年前の聖女サヨと同じ世界から来たと、彼女が話したそうだ。

サラが病人や怪我人を次々に治していく姿を目の当たりにした者たちから噂は広まり、新聞記事にもなったことによって、聖女信仰が過熱しそうな予感がする。

それだけならジェラールも聖女降臨を慶事と捉えるのに、昨日、国王から聖女を娶れと命じられたため腹を立てていた。

聖女を妃とすれば国民の忠誠心や支持の声が高まるだろう、というのが理由だそうだ。

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