没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
帰り際にオデットが握ってくれた右手を握りしめ、ジェラールは斜向かいに座る父に強い眼差しをぶつけた。

「なにか仰ってください。いえ、なにかではありません。昨日の発言を撤回しこれまで通りオデットとの結婚準備を進めると約束してください」

国王はよく煮込まれた牛肉を口に運び、その柔らかさをゆっくりと堪能している。

ジェラールは手をつける気にもなれないというのに、味わう余裕があるのが恨めしい。

メイドに注がせた赤ワインも、これで三杯目だ。

ジェラールが眉をひそめたら、メイン料理の皿を空にしてからやっと国王が答えた。

「ログストン伯爵令嬢は親王派の貴族たちを刺激するだけで利益を生まない。どうしても離れがたいと言うなら、公娼にすればいい」

「は?」

思わず不遜な返しをするほどジェラールは驚き、目を見開いた。

ジェラールの中で父親の存在は偉大で、政務への真摯な姿勢は見習うべきと尊敬している。

真面目で実直な父の難点と言えば、ユーモアのセンスに欠けるくらいしか思いつかない。

そんな父がまさか息子に公娼を勧めるとは思えず、ジェラールはまじまじと国王の顔を見た。

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