没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
遠くの教会から十四時を知らせる鐘の音が聞こえる中、ベージュのシンプルなコートを着たオデットはカルダタンへの道のりをのんびりと歩いている。
今日はブルノにお使いを頼まれて郵便局に行った帰りだ。
「いいお天気でよかったわ」
晴れの日は心が弾むが、雪が降っていても暖かな室内にいると幸福感を味わえるので、それも好きである。
今日のティータイムにルネが持ってきてくれる菓子はなんだろうとのんきに考えつつカルダタンまで戻ったら、店先に人垣ができていた。
(なにかしら。カルダタンはセールをやっていないけど……)
一気に客が押し寄せるような店ではないので、オデットは人垣の後ろで目を瞬かせている。
すると前に立つ男性ふたりの会話が聞こえた。
「なんと神々しいお姿だ。絵本で読んだ通りの黒髪でおまけに美人。俺にもお声をかけてくださらないか」
「話したいなら怪我をすればいい。癒しの力で治してもらえるぞ。そこの屋根から飛び降りろよ」
「おいおい、まだ死にたくないぞ。勘弁してくれ」
(黒髪で癒しの力って……)
どうやら集まっている人々は、店内にいる客を覗いているらしい。