没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
全体的に黒ずんでいるが柄の先端には小粒のルビーがはめ込まれていて、特別な食事で使うスプーンだろう。

オデットは石の状態を確かめながら、淡々とルビーについて語る。

「ルビーはコランダムという鉱物です。コランダム自体は無色透明なんですけど、そこにクロムが混ざることで赤い色がついてルビーになるんです」

「へぇ」

低く艶のある声で相槌を打つのはカウンター越しに向かいに座っている客ではなく、スツールを勝手にひとつ追加してオデットの隣に腰かけているジェラールだ。

政務が忙しいだろうから二度目の来店はないはずだと寂しく思ったというのに、ジェラールは仕事の隙間時間でオデットに会いにやってくる。

昨日は昼頃、一昨日はティータイム時に来て、ブルノやルネも含めて他愛ない話をして帰っていった。

宝石を鑑定中のオデットはいつも別人のような凛とした雰囲気を醸し出す。

けれども今は集中しきれず、素の性格が見え隠れしていた。

(腕が触れてしまうわ。近すぎるのよ。そんなに見られていると仕事がしにくいのに)

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