没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「なにかわかったらご連絡しますね」

ドア口でアランを見送ったオデットは店内に引き返し、カウンターの内側に座っているジェラールと向かい合う。

「ありがとうございました。雇われ人の私は高額で買い取ってあげられませんので、嬉しかったです」

「一応買い取ったが、このスプーンはいずれあの子に返すつもりだよ。彼にとっては大事な物だろ」

「いいんですか?」

「銀のスプーンには不自由していない」

「あっ……」

連日ふらりとやってきては気さくに話してくれるので、おそれ多い存在だと忘れそうになる。

「かしこまらないで。今の俺はジェイ」

背筋を伸ばそうとしたオデットに先手を打って注意した彼は、視線を少し下げて微笑んだ。

「ネックレスをつけてくれてありがとう」

「そんな……お礼を言うのは私の方です」

彼が来店するたびに返そうとしたのだが、頑として受け取ってくれないのでオデットが折れた。

自主的にネックレスをつけたのは今日が初めてで、嬉しそうに目を細めてくれるから、もらってよかったという気持ちになれた。

ふたりが微笑み合ったら、商品の柱時計が十八時の鐘を鳴らした。

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