没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
スツールに座り直したジェラールは口元を片手で覆うようにして、なにやら独り言を呟いている。

それによるとこの後、大事な会議が控えているそうだが、すっぽかす口実を考えているようだ。

政務に支障があっても責任は取れないと焦ったオデットは、なんとかジェラールを帰そうと試みる。

「あの、戸締りはちゃんとしますので。隣にはルネもいますしなにかあったら……あ、そうだ、ロイ。きっとこれから来ると思います。今夜は二階に泊まっていってもらいますね」

ロイは明日から試験期間なのでしばらく顔を見せないはずである。

ジェラールを安心させようと思ってそう言ってみたのだが、逆に彼の眉間の皺を深めてしまった。

「オデットに気がある少年と、夜間にふたりきり? 余計に危ないだろ」

「え? ロイはまだ十三歳ですよ。私に懐いてくれていますけど、そういうのじゃなくて姉弟のような――」

オデットが釈明している最中に店のドアが勢いよく開けられ、本当にロイが現れた。

制服ではなくシャツにサスペンダーつきのズボンを穿いているので、自宅から来たようだ。

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