没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
(ロイをからかいたいからって、私にこういうことをするのは……)

額であっても顔へのキスは両親以外の人にされた経験はなく、たちまち動悸が始まる。

恥ずかしさに耳まで赤くなり、のぼせそうに顔が火照った。

「おおお、お前はー!」

ロイが叫んで駆け寄ると、ジェラールがオデットを離してサッと身を引いた。

カウンター越しに届かないパンチを繰り出すロイを、ジェラールが楽しげに笑う。

「可愛いお仕置きだな。君は子供だという自覚を持つべきだ。恋愛ごっこはクラスメイトの女の子とすればいい」

「馬鹿にするな!」

ロイがカウンター内に乗り込もうとしたら、ジェラールがひらりと逆側に飛び越し、ふたりは店内で追いかけっこを始める。

(楽しそう。殿下は弟が欲しかったのかしら)

一昨日のティータイム時にやってきた彼は、姉が三人いてすでに嫁いでいると話していた。

他に兄弟はいないそうだ。

キスされた額を気にして手をあてていたオデットだったが、騒がしいふたりを見ているうちに動悸は治まりフフと笑う。

(走り回ったらお腹が空くわよね。ふたりに夕食をご馳走するわ)

< 52 / 316 >

この作品をシェア

pagetop