没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
ジェラールが近づいてきて目を細める。

「可愛いよ。いや、美しいと言うべきかな。今のオデットの前では、大輪の薔薇も霞んでしまいそうだ」

「あ、ありがとうございます……」

彼はきっと多くの貴族令嬢と交流があるはずで、女性を褒め慣れているのだろう。

一方で社交界デビューもしていないオデットは、いちいち真っ赤になってしまう。

照れくさくてもじもじしていたら、クスリと笑った彼の頬もわずかに色づいた。

差し出された大きな手に右手を重ねると、甲に唇を落とされて心臓が波打つ。

「オデットをエスコートできる喜びをなんと表現しようか。行き先が舞踏会でないのが残念だ」

(舞踏会。夢のような話ね……)

実現しないと思いつつも華やかで賑やかなダンスホールを想像し、うっとりした。

オデットの場合、貴族たちがどんな宝石を身に着けて来るだろうというズレた興味の持ち方ではあるが。

店を出て王家の馬車に乗せられる。

まるで高級ソファのような座り心地に感嘆したら、後から乗り込んだジェラールがオデットの隣に腰を下ろした。

シートは向かい合わせの四人掛け。

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